若者の価値観についての調査

留学、就職活動を論じるにあたり、若者の価値観の変化について理解を深めておく必要があると思う。若い社会学者の古市憲寿(ふるいちとしのり)が2011年、当時26歳の時に記した「絶望の国の幸福な若者たち」を取り上げ、その中に取り上げられている、若者の価値観を考えてみたいと思う。

今の日本人の若者の多くは、就職難のために、就職先が決まらないあるいは非正規雇用という立場に置かれている。さらには世代間格差、高齢化を支えるための負担が大きくなっており最も不遇な世代であると言ってもよい。しかし、彼らはどの世代よりも幸福感を感じているという統計が出ている。彼らは本当に幸せなのだろうか?

今の若者はユニクロに行けば服は手に入るし、H&MやForever21のようなファストファッションの店もかなり増えて選択肢は広くある。マクドナルドようなファーストフード店は探さなくてもどこにでもあるし、お腹がすけば吉野家のようなお店で安くてお腹いっぱいにボリュームとスタミナのある食事もできる。サイゼリアのようなレストランであれば時間を気にせず何時間でも友人といっておしゃべりできる。Youtubeで面白い映像はいつでも見れるし、情報はスマートフォンでいつでも手に入る。インテリアに凝りたければIKEAやMUJIでシンプルで機能的な家具や小物が手に入る。本屋に行かなくてもipadでダウンロードすればいつでも読書だってできる。こうした消費は背伸びしなくても一般的な若者が送っている、ごくありふれたライフスタイルの風景となっている。

こうした普段の生活を手に入れている現代の若者たちは、確かに過去の若者よりも幸福かもしれない。内閣府の「国民生活に関する世論調査」ではそうした数字が表れており、古市はその数字に注目している。

 

現在の生活に対する満足度(男性のみ)

100内閣府の「国民生活に関する世論調査」

上図は、生活に対して満足と感じている男性の世代別グラフである。20代の若者は65.9%が「今が満足である」と感じている。今から40年前の1970年には、若者 が一番満足と感じておらず、年齢とともに満足度は増していくというラインを描いていたのであるが、今は20代若者と老人が満足を感じているという統計になっている。

 

現在の生活に対する満足度(男女とも)

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内閣府の「国民生活に関する世論調査」

ここ数年の20代、30代の若者の生活に対する満足度は確実に上昇している。満足度は20代の方が、30代よりも高いという結果となった。また男性よりも女性の方が満足度が高く、それが全体的な満足度の平均を押し上げている。

しかし、日常生活での悩みや不安という項目においては、相反すると取れるような矛盾した数字が表れている。以下、「日常生活での悩みや不安」に関する統計である。

 

日常生活での悩みや不安

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バブル期の1989年ぐらいから、若者の「日常生活での悩みや不安」は徐々に減少傾向にあったが、2002年頃から逆転し「日常生活での悩みや不安」を感じる若者が増加している。先の満足度の調査では、年々、満足であると感じる若者が増加しているに関わらず、「日常生活での悩みや不安」は増大しているという矛盾しているような結果となっている。

最新の2012年の調査結果に注目すると、満足感を感じている若者(20代)は全体の75.4%に対し、悩みや不安があると感じている若者が全体の69.1%という、やはり矛盾しているようにも思える結果である。

こうした状況を社会学者の大澤真幸は、次のように説明している。「人が自分が今は満足していない、不幸だという事が出来るのは」今は不幸だけど、将来は幸せになれると考えることができる場合であるとしている。つまり、今がピークで、これ以上幸せになれないと思うとき、人は今が幸せだと答えるしかない。

この現象は70代の老人に見られる統計にも現れている。70代の満足感は71.4%となっており非常に高い。ちなみに満足感が70%を超えているのは20代と70代だけである。お年寄りは、寿命もあるし、今後の将来よりも現状で満足感を判断するしかないため満足感が高くなっていると思われる。

つまり現代の若者の考え方もそれと同様で、今以上に良い将来がある、あるいは幸福になれると考えていない結果の裏返しとして、今の現在の満足感が高いのである。1970年には若者満足度は52%程しかなく、年齢を重ねるごとに徐々に満足感は上昇していた。これは、若者には向上心があり、まだ自分の生活水準をあげたり、出世して良い生活が行えるようになるという希望や夢が将来にあった為である。今の若者には、そうした将来的な希望がなく、それが満足感の裏返しの69.1%という不安や悩みの高さに現れている。

 

コンサマトリーな価値観

コンサマトリーとは「それ自体を目的とした」「自己充足的な」という意味の、社会学者タルコット・パーソンズの造語である。コンサマトリーとは道具やシステムが本来の目的から解放され、地道な努力をせずに自己目的的、自己完結的(ときに刹那的)にその自由を享受する姿勢である。そうした点において現代の若者はコンサマトリー化していると言われている。コンサマトリーの対義語はインストゥルメンタルである。その行為は別の目的のための手段であり、それだけでは欲求が満たされないようなことは、インストゥルメンタルと言われる。

例えば、コンビニに行くという行為。買いたい商品があってコンビニに行くのは、インストゥルメンタルな行為である。しかし、何となくコンビニに立ち寄ってそこで何か買うとか、ふらりと立ち読みしたりするのは、コンサマトリーな行為である。

テレビを視聴するという行為は、コンサマトリーな活動である場合が多い。というのも、テレビは目的を持ってと言うよりも、ヒマつぶしとして見ているからであ る。テレビを見る人は時として「なにかおもしろいことなないか?」「何も絵も音もないのは寂しいからテレビでもつけるか」という動機でテレビを見ている事が多い。だから、この時テレビは情報が流れていればそれでよいのであって、テレビのもたらす情報それ自体にさしたる関心はない。何か特定の情報が欲しくてテレビを見 ているというよりは、テレビを見るという事、そのものが目的化して、いつテレビのスイッチをオンにしてしまうという。こうした行為はコンサマトリーとして説明できる。しかし、見たい番組があって、録画して視聴したり、その番組の開始時間に合わせてチャンネルを合わせることはインストゥルメンタルである。

古市は、コンサマトリー化する若者の現状と、満足感の高い理由を結びつけて次のように説明している。

こうした若者の意識は「コンサマトリー」という概念で説明できる。コンサマトリーとは、「今、ここ」の身近な幸せを大事にする感性のこと。何らかの目的に向けてまい進するのではなく、「仲間たちとのんびりと自分の生活を楽しむ生き方」であり、すでに70年代から指摘されていた。「90年代以降に『中流の夢』が壊れ、『企業』の正式メンバーにならない若者が増える中で、いつまでもコンサマトリーでいられる若者が増えて行った」

今の若者は、こうした「今、ここ」の身近な幸せを大事にする感性のゆえに、今に満足しているという回答が、不満足を上回っていると指摘している。

 

仲間を重要視する傾向

古市は、若者が幸福を感じている他の点として「仲間の存在」を指摘している。2010年の内閣府「国民生活選好度調査」の「幸福度を判断する際、重視した事項」を見ると、15~29歳の若者の60.4%が「友人関係」と答えており、他世代に比べて突出して高い。

この点に注目して、古市は、価値観が多様化し、もはや「若者文化」と呼ばれるもがない現代においては、「一人じゃないことを確認するには仲間といっしょにいる事が物理的に一番手っ取り早い」として、若者が「ムラ化する小さな社会」を形成していると述べている。つまり若者は「仲間」がいる「小さな村社会」で日常を送る事で幸せを感じており、それこそが満足感が高い理由としている。

古市は、元早大野球部主将・斎藤佑樹投手が語った「何か持っていると言われ続けてきました。今日何を持っているのか確信しました……それは仲間です」との決めゼリフや、ONE PIECEの基本思想である「仲間のために」などが、そうした若者たちの象徴でもあるとしている。

「絶望の国の幸福な若者たち」では語られていないが、以下のYoutubeの対談では、シェアハウスに住まう若者について言及されている。そうした若者たちは、家に帰れば仲間がいつもいるという環境に守られ、癒しを得られているので、例えばブラック企業のようなところでも働き続けているのではないかと指摘している。つまり、現実はどんなに過酷でも、あるいは社会にどんな問題があっても、同じような価値観が共有できる仲間がいれば幸せであると感じられるのである。

 

若者の傾向をリサーチする理由

現代若者の傾向を知る事は、弊社が今後、どのようなサービスを顧客に提供できるか、あるいはしなければならないかを設定するうえで重要な事項である。なぜならば、我々の顧客となるのはこうした若者世代の人々であるから。あるいは、今後の日本の経済を支えるのもこうした世代だからであり、その為のキャリアパスとしての留学や、研修事業を提供することを我々は使命としているからである。

現代の若者像は、いわゆる大人とされている世代から、消費という観点から見ると危機感を感じるかもしれない。今の若者は「クルマ離れ」「旅行離れ」「ビール離れ」「草食男子」という言葉に代表されるように、消費に対して関心がないことは問題であるとしている。『「嫌消費」世代の研究』という本の帯には「クルマ買うなんてバカじゃないの?」というキャッチコピーがあり、こうした価値観が若者に一般的に浸透していることを示している。また同書は「アルコールは赤ら顔になるから飲みたくない」、「化粧水に1000円以上出すなんて信じられない」、「大型テレビは要らない。ワンセグで十分」、「デートは高級レストランより家で鍋がいい」として、とにかく若者世代は消費をしないと指摘している。

しかし、いろんな消費に対する「離れ」が起こっていることに対しての懸念に関しては、私は懐疑的であるし、過去と違う消費に関する価値観がある事にも肯定的である。今後、こうした若者たちの消費の傾向や、どのように価値観が変化しているのかをリサーチしながら、我々が、こうした若者の価値観に沿ったビジネスをどのように提供できるかを検討してゆきたい。

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