会社に仕えるか、それとも会社を使うか

今回は、会社と従業員の関係について考えてみたい。

会社に所属するという事は、会社のために働き、会社から給料を受け取るという事である。言ってみれば労働力を会社に売り、その対価としてお金を受け取っているという事でもある。よって労働力の提供されている時間(勤務時間)の間は、個人の行動は、会社にある程度、束縛されても仕方がないと言える。そうすると、我々の人生における多くの時間は必然的に会社のために使われるという事になる。

ここで、誰もが「仕事と幸福度」という問題にぶち当たるのである。

我々は会社のために働いているのか(自分の人生を会社に捧げるのか)、あるいは我々が会社を利用しているのか(自分の人生のために働くのか)を、今一度、見直す必要があるだろう。これは誰もが直面する課題でありながら、実は、我々、日本人はこの課題を周りの職場環境に流されて行動するだけで、あまり真剣に考えてこなかったふしがある。例えば勤務時間や仕事と家庭・プライベートにおける優先度において、日本人は社会的な価値観に流されて、常識でもあるかのように会社を優先する「選択」をしてきた。「選択」という言葉を使ったが、選択とは2つのうちのどちらかを状況に照らし合わせて熟考して選ぶ事である。とするならば、この選択という行為すら、我々はまともに行ってこなかったのではないだろうか。こうした、日本ではいわゆる常識とされている見方はともかく、今一度、仕事とプライベートの関係を、検討してみるのはどうだろうか。

欧米諸国ではワークライフバランスが重要視されている。このワークライフバランスという問題は難しく、その問題は人生における満足度とも関係している。

アクセンチュアが実施した調査「成功の定義」(Defining Success)では、日本を含む世界33か国の中規模・大規模企業のビジネスパーソン4,100人(男女比同率)を対象に、働き方やワークライフバランスに関する意識を明らかにしており、世界における価値観(グローバルスタンダード)を探るのに参考となる。

 

Q:家庭(プライベート)と、キャリアにおける成功は両立することが可能である

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回答者の70%が、「仕事と家庭を両立することは可能である」という意見に賛成している。

 

Q:プライベートと仕事を、どちらも同時に充実させることは出来ない。

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前の質問とは矛盾しているようにも感じるが、50%が仕事とプライベートを同時に充実させることは出来ないと考えている。多くの人が、両立できるとは考えているが、両方を同時に充実させる事は難しいと考えているという結果である。この結果は、誰もが仕事とプライベートのバランスを実現させたいと願ってはいるが、実際にはそれが出来ていない事の現れであると思われる。近年、ワークライフバランスが重視されていることは、次の統計結果からも分かる。

 

Q:キャリアの成功とはなんですか?(複数回答可)

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最も多い56%で、キャリアにおける成功は「ワークライフバランスの実現である」としている。ワークライフバランスは多くの人にとって、キャリアにおける理想であり、同時に課題にもなっていることが推測できる。アクセンチュアのリーダーシップ担当最高責任者であるエイドリアン・ライタ氏(Adrian Lajtha)は以下の様に述べている。

「ビジネスパーソンの多くは、キャリアを積み重ねる中で成功の定義を常に捉え直しています。キャリ アとプライベートのどちらを優先するかについては、その時々で考え方を変える人が大半です。今の時代のビジネスパーソンは仕事とプライベートの適切なバランスをとろうと努力しています。」

このアクセンチュアの調査は、日本も含まれているが、他の国々の意見(世界33か国)もあり、一概に日本のビジネスパーソンの意見としては捉えられない。しかしながら近年、日本においても、世界的な仕事における満足度と調和したワークライフスタイルの実現が求められるようになっているのは間違いない。

 

社畜と遊牧

Wikipediaによると、「社畜(しゃちく)とは、主に日本で、勤めている会社に飼い慣らされてしまい自分の意思と良心を放棄し奴隷(家畜)と化したサラリーマンの状態を揶揄したものである」と説明されている。どんな労働者も奴隷のような状態で働きたいとは思わない。しかし、日本の会社のワーキングスタイルは、社畜的な働き方があたりまえで、労働者側にもそれを良しとするような風潮になってしまっている事は否定できない。

日本人には規範として「滅私奉公」という、己よりも職を優先することが美徳とする気質がある。特に高度経済成長期以来、日本は、この滅私奉公の精神が歪曲され、サラリーマンは家庭を顧みずに仕事に邁進すべきだと考えていた。サラリーマン達は企業戦士と呼ばれ、「24時間働けますか?」というCMキャッチコピーに代表されるように、バブル期には過度の労働を推進してきたのである。しかし、こうした労働スタイルは、バブルの崩壊以降、過労死や労働災害等の問題として表面化するようになる。

こうした労働スタイルは改善された訳ではなく、構造的な問題として、日本の労働環境には根強く残っている。最近では「ブラック企業」の問題が取り上げられているが、このような企業では労働者は不当な扱いや、過度の残業が日常的に押し付けられ、使い捨て感覚で雇用されている。2011年に経済協力開発機構(OECD)がまとめた最新の世界労働時間ランキングによると日本人の労働時間は世界2位である。(下図参照)

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世界で日本の労働時間は2位となっているが、青の部分は有給の労働時間数、グレイの部分は、通勤、買い物、家事等の無給の労働時間を表しており、職場勤務における労働時間は、やはり日本が世界で最も長く働いている事になる。しかも、日本の会社に特有の制度「サービス残業」の時間は、当然、この中には含まれていない。つまり依然として、日本人は世界でもかなり働き過ぎている国民なのだ。

近年、社畜的な仕事のスタイルから脱却する方法として、日本でもノマドライフというスタイルが注目されつつある。「ノマド」とは遊牧民のことであり、いつも決まった場所ではなく、カフェや公園、お客さんのオフィスなどでノートパソコン、スマートフォンなどを駆使しネットを介して場所を問わずに仕事を行うスタイルである。このワーキングスタイルが日本人に適しているかどうかはさておき、今までの過剰な労働を軽減するには一つのヒントになるかもしれない。

ノマドスタイルに関しては賛否両論ある。誰もがこうした仕事のスタイルを取れる訳ではないことや、ひと時の流行でしかないという意見もある。また会社に属していながら、アイディア出しのような場合にノマドスタイルで仕事をすることを提案するような意見もある。

 

日本人のDNA

興味深いことに、我々、日本人の中にはいつも相反する、異なる価値観が存在している。例えば、日光東照宮と桂離宮、仏教と神道というように異なる価値観を共存させながら日本の文化は形成されうまく融合されて成り立っている。松岡正剛はそうした日本的な方法をデュアルスタンーダードという言葉を使って説明している。パラレルな価値観があり、それを融合、あるいは使い分けながら日本人は文化を、そして社会を成立させてきたのである。
私は、日本の相反するこの価値観は、我々の先祖である縄文的なDNAと、弥生的なDNAの双方によってもたらされていると思っている。実際に、遺伝学的に見ても、我々日本人は、他の民族にはない特別なDNAの型を持っているのである。ひとつは縄文由来の「M7a」というミトコンドリアDNAの型、そしてもうひとつが「N9a」という弥生由来のミトコンドリアDNAの型である。この相反するミトコンドリアDNAが日本人のなかには共存し、それを受け渡しながら日本という国や文化や社会が築かれてきた。

1ここで注目したい点は、狩猟民族としての縄文DNA(M7a)と、農耕民族としての弥生DNA(N9a)が我々には共存しているという事で、もしかするとこうしたミトコンドリアDNAが日本人の持つ、相反する価値観に影響を与えているのではないかとも考えられる。これを仕事に対する価値観という部分で考えると、遊牧民的なワーキングスタイルは縄文的な価値観に属しているし、会社に依存する定住型ともいえるワーキングスタイルは農耕に適したワーキングスタイルといえるのかもしれない。

松岡正剛が指摘する日本のデュアルスタンーダードという方式は、日本人特有の、外からきた価値観を、従来からあった価値観と上手く融合させる能力によって生じたと説明されている。我々はもともと、異なる価値観を融合し、時には使い分ける高い能力を持っていたにもかかわらず、第二次世界大戦あたりからこうした能力が発揮されず、どちらかの極端に振れてしまうという傾向にある。そしてそれが仕事のスタイルにおける「滅私奉公」の極端な捉え方にもつながってしまったのではないか。

さて、こうした我々、日本人のもつデュアルスタンーダード方式はワークスタイルにも活かせるに違いない。それは仕事のタイプによってワークスタイルも変えてみるといったような柔軟な方法によってである。例えば、営業的な仕事はある意味ハンティング的な要素があるので、ノマドスタイルは適しているかもしれない。また事務的な仕事であれば定住型のワークスタイルが向いている。またチームで何らかのプロジェクトを成功させたいのであれば、農耕的な組織的な仕事の方法が求められるだろうし、個人の力量や交渉力が必要な場合には、個人プレー重視の狩猟方法に基づいたスタイルが適しているかもしれない。縄文人と弥生人の子孫である我々は、両方のスタイルを状況によって使い分ける柔軟さが生来あるはずであり、それが生産性を上げることになるかもしれない。

現代は、インターネットの普及により、より柔軟な環境下で仕事ができるようになっている。これらは強力な最新の武器であり、そうした飛び道具を活用してせずして我々が戦わない手はない。古代人たちも、狩猟民でいえば石斧を捨て、青銅を加工して弓矢に使わない訳にはいかなかったし、農耕民であれば青銅器や鉄器の農具が仕事をずっと楽にしたはずである。仕事の歴史は、いかに重労働を軽減して、効果的、かつ生産性を向上させることが出来るかという点にあった。今でも日本企業に見られる人海戦術的な、労働時間集約型のワーキングスタイルを何とかして改善する試みなければ日本の労働者の幸福度の向上は、どうにも達成されないように思われる。

グローバル化が進むと、我々のビジネスの競争相手は世界中の企業となる。そんな時代に、第二次世界大戦末期のように、竹槍(長時間勤務)で、アメリカ兵と戦おうと息巻いていてもしょうがないのである。

会社のために働いているのか、あるいは単に生活のために働いているのか、それとも自己実現のために働いているのか。この違いは大きい。会社のために働くという人生は奴隷である。生活のための仕事であれば、仕事の時間は奴隷でしかない。奴隷を脱するためにも、会社を自己実現のための手段、あるいは有用なツールとして捉えてみるのはどうだろう?授業員はその労働力を会社に売ることで給料を得るが、その対価として、給料以上のものも得られるかもしれない。例えばCSR活動に携わる事で、会社というビジネス手段を通して社会や環境に貢献し、見知らぬ誰かから感謝されるかもしれない。また、あなたのアイディアにより今までにないビジネスを創出するならば、新しい雇用を生み出し地域の活性化に貢献することが可能である。あるいは起業にそなえて、人脈を作ったり、業界内に信頼できるビジネスパートナーを見つけることだってできる。

会社は人生を捧げて仕えるものではなくて、我々が人生における目的を達成するための手段でしかない。会社に提供された業務をこなす事、それは奴隷の仕事だ。だから会社に使われるのではなく、もっと会社を使うようにしよう。それにより、少なくともあなたの「今」の仕事は変化するに違いない。

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