起業率から、日本での起業を分析してみた

グローバル・アントルプレナーシップ・モニター( Global Entrepreneurship Monitor:これ以降、GEM )では、世界の起業に関する調査が報告されている。今回は、この調査データを通して、日本における起業の状況と起業家のおかれている環境について考えてみたい。

GEMには55カ国が参加し、企業データが集計されている。こうした起業データがなぜ注目されているかというと、起業や事業の創造は、国家経済を活性化するための重要な経済活動だからである。起業活動によって新しいビジネスや雇用が生み出され、その結果として経済成長や産業構造の転換が期待される可能性が生まれる。では、世界における日本での起業状況はどうだろうか?


各国の起業活動率 TEA(Total Entrepreneurship Activity)

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起業活動率、TEA(Total Entrepreneurship Activity)という指標は18歳から64歳までの人口に占める、企業活動を行っている者(起業準備中の個人および 起業後3年半以内の会社を所有している経営者)の割合のデータである。つまりこの数値によりその国の起業状況が把握できるという訳である。
データではナイジェリアが35%以上というかなり高く突出した数値になっているが、先進諸国のサラリーマンのような就業形態が確立されていない国においては、必然的に自営でビジネスを行うしかなく、そのために数値が高くなっている。先進諸国では、米国の 12.3%、オーストラリアの 10.5%、オランダの 8.2%辺りの起業稼働率の高さに注目できる。それと比較すると日本の起業率は5.2%しかなく、世界の起業率と比較してもかなり低い水準である。

こうした日本の起業率の低さには、いくつかの原因があり、簡単には起業率を上げることは難しいと思われる。
果たして起業稼働率を上げることに何の意味があるのか?という疑問のある方もいるかもしれないが、新しいビジネスが発生し、産業が活性化し、新しい雇用が生み出されるという点においては起業稼働率を上げることは重要なのである。その為、政府や自治体も、支援プログラムの提供、優良ベンチャーの表彰制度、大学からの技術移転など、起業活動に対する経済的、制度的、社会的な環境整備を行っている。しかしながら先進国の中で、日本の起業稼働率はあまりにも低く、それには幾つかの理由がある。

起業家の地位に対する評価の推移

a上図は、起業家に対する評価である。先進諸国の中で、日本での起業家に対する評価は非常に低い。日本人は安定志向という気質があるため、リスクを取ってまで起業することに対しての評価は低いという傾向を示している。

 

個人投資家(エンジェル)の活動の推移

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起業活動は多くの個人投資家によっても支えられている。個人投資家(エンジェル)による活動をモニターすることで、起業やベンチャーに対する関心度や理解度を見ることができる。上図は「過去3 年間に、他の人がはじめた新しいビジネスに個人的に資金提供をしましたか」という質問に対して「はい」と回答した比率である。日本は1.2%と最低であり、資金調達面でもサポートを受けにくいビジネス環境である事がわかる。

 

事業の競合性

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日本と中国は競争が多い市場での起業が行われている。中国においては、国内市場が大きいため、競合が多くてもビジネスとして成り立つためであると考えられる。日本は起業年齢が高く、同業の範囲内で独立起業することからこのような結果になっているのかもしれない。他の理由として考えられるのは、新規のビジネスモデルを生み出すという点で日本が弱く、新しビジネスモデルに対しても参入に慎重な事が理由として考えられるかもしれない。

 

事業の新規性

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事業の新規性に関してもドイツと並んで、日本は新規性に乏しいビジネス分野での起業が行われているという結果が報告されている。中国に注目すると「すべての顧客・一部の顧客にとって新しい」割合が60%となっている。先の競合性のデータでは日本と中国の数値は近かったが、こちらのビジネスの新規性の部分では違いが現れている。これは中国の起業家は、日本の起業家よりもアグレッシブである事の現れである。

 

海外志向

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日本では、「海外顧客の比率が 0%」が 53%であることから、半数以上の起業家が国内のみでビジネスを展開しており、起業家の国際的視野でのビジネス展開の意欲、意向が、低いことがうかがわれる。他方、中国では 9 割弱が「海外顧客の比率が 0%」となっており、国内市場が非常に大きいがゆえに、国内の顧客のみで十分ビジネスが成り立つものと考えられる。

起業の面でも、海外取引を積極的に行う日本の起業もこれからは増加するとは考えられる。競合の多い分野でビジネスを始める起業家が多い事や、日本市場自体の縮小や、少子化を考えるとやはり、起業家は海外に市場を求めてスタートすることも重要になるかもしれない。

 日本における起業の背景

日本における起業の形態を考えると、世界の他の国よりも、環境的に難しい要素がある。それは国民性で、起業というリスクある選択に対して消極的で、世界と比較しても日本の起業稼働率はかなり低いことにそれが現れている。この消極的さは、起業に対する投資家(エンジェル)の少なさや、社会で起業家があまり評価されないという統計にも裏打ちされている。例えば、起業に対する投資家(エンジェル)はほとんど存在しないため、日本では起業家が自分で資金を貯めなければビジネスは始められないようになっている。同時にそれは起業する人物が、事業における姿勢や真剣さを持っているかを図るための指標ともなっているようである。つまり投資家の側も、資金があるところには、投資をするという、投資のリスク回避が取られている。そのため、アイディアだけがあっても資金を調達して起業をすることは日本では困難である。こうした日本の起業家に求められる通念(起業には自己資金が必要である)は、新しいビジネスアイディアの実現化という面からみれば、その実現を阻む大きな要因になっているのかもしれない。

例えばアメリカで、新規ビジネスやイノベーションが起こりやすいのは、アイディアや、そのアイディアに対する有望性に資金が付いてくるからである。こうした通念は、新しいビジネスと、革新的なアイディアを生みやすいというビジネスにおる文化を醸成している。

日本はそうした部分でハードルが高いため、起業率は必然的に他の国と比べても低下している。また起業家は自己資金でビジネスを開始するため、失敗した場合のリスクも高く、再チャレンジも難しいという環境を生み出している。

こうした背景があるために、日本の起業は、競合の多いビジネス(安定した業界・業種)で、かつ新規性の薄いビジネスでなければスタートできない状況になってしまっている。さらに、日本は失敗に対しいて寛容でない国なので、それも起業家に対する社会的な評価の低さにも繋がっている。さらにそれもまた新規性の高いアイディアやビジネスを阻む要因になっている。こうした要因は、日本社会が抱える根深い「風土・文化」の問題とも言え、短期的に改善を図ることは難しいだろう。

今後の日本の起業

0日本の市場は縮小傾向にあり、グローバルにビジネスを行うことが求められる時代になっている。こうした状況は起業に対しては、追い風であると私は考えている。例えば日本でうまくいっているビジネスを、海外で展開するならば、日本市場では競合が多くても、現地では新規性のあるビジネスになるかもしれない。またシリコンバレーの投資家たちは、日本のベンチャーであっても面白いアイディアをもつ企業に対しては積極的に投資を行っている。当然、そこには英語でコミュニケーションできるスキルが求められるが、日本語であっても話の通じない資金援助者とコミュニケーションして労力を奪われるよりも、信念あるアイディアがあるならば英語のハードルほうがまだ楽かもしれない。

このようにグローバルに市場を捉えることで、逆に起業のハードルを下げることが出来る時代がきている。そして、現在、そうした起業家たちが既に活動しており、今後はグローバルに商品・サービスを販売すること、あるいはグローバルに資金を調達することが積極的に行われるようになると思う。
日本の国民性、あるいはビジネスにおける風土・文化は短期的には変化することは無い。それを嘆くよりは、違うルールに則ってゲームに参加する方が賢明かもしれない。これからグローバルな視点を持った起業家が世界の起業文化のメリットを積極的に活用し、その恩恵を享受出来るようになれば、起業は日本で行うよりもずっと楽なものとなるだろう。

先に述べたように、起業は、経済を活性化するための重要な経済活動であり、新しい雇用を生み出す重要な行為である。しかし、そのリスクある決断が、日本においてはあまりにも評価されておらす、むしろ否定的に捉えられている節さえある。それゆえに日本では起業が難しいのであるが、こうした日本の構造は、先ほど私は示したような「海外起業志向」のあるビジネスパーソンを、より海外に流出させてしまうという事になるのではないかと思う。

今後、グローバル化が進むと「海外起業」を行う起業家が増えるかもしれない。いくら日本人が始めた海外の法人が活発であっても、日本には国益がない。その時になってやっと、日本を取り巻く起業状況は、社会も含めて変わらなければならないことに気付くのでは無いだろうか。

出典
平成23 年度創業・起業支援事業(起業家精神に関する調査)

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