長寿企業の歴史

世界一の長寿は誰でしょう?

答えは、京都府京丹後市の木村次郎右衛門さん115歳である。日本人は長寿国として知られているが、世界長寿のランキングには日本人のお年寄りが本当に多い。日本は世界的にも有名な長寿国である。(ご長寿ランキング

では、世界一長寿の企業は?

実は長寿企業も日本にいる。その企業とは「金剛組」である。金剛組は寺社建築工事業を営む企業で、創業は飛鳥時代西暦578年であるので今年で1435年間も続いている企業という事になる。以下、金剛組の会社沿革の抜粋である。

聖徳太子の命を受けて、海のかなた百済の国から三人の工匠が日本に招かれました。このうちのひとりが、金剛組初代の金剛重光です。工匠たちは、日本最初の官寺である四天王寺の建立に携わりました。

聖徳太子ゆかりの企業とは凄い長寿である。

面白いことに日本人のお年寄りが世界の長寿リストに載っているのと同じように、世界の企業の長寿リストにも日本の企業がかなり沢山載っている。実際に日本には創業100年を超える長寿企業が2万4792社(帝国データバンク集計)もあり、創業1000年を超える企業も、金剛組も含めて7社もある。日本はまれにみる長寿企業国なのである。以下は日本の長寿企業上位10社である。

日本の長寿企業TOP10

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やはり1000年以上の企業が7社もあるというのは凄い。ちなみに世界で見ると、日本以外で1000年以上の企業はオーストリアのStiftskeller St. Peter(レストラン)が創業西暦803年、ドイツのStaffelter Hof(ワインメーカー)が西暦862年、イギリスのThe Bingley Arms(パブ)が西暦953年創業となっている。ちなみに私もこのパブある街に住んでいたので、行ったこともあり、地元民のようにとても誇らしい気持ちである。
またフランスのChâteau de Goulaine(ワイン)が創業西暦1000年、イタリアのMarinelli Bell Foundry(製造)も西暦1000年の創業である。こうしてみると世界の1000年以上の12社の中で、日本企業が半分以上を占めており、そのほとんどが上位(1位~6位まで日本企業)という快挙である。とても誇らしい。

 

創業200年以上の国別企業数割合

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上図は韓国銀行がまとめた、200年以上続いている企業の国別割合の統計である。世界41カ国中で創業200年以上の企業は5586社あり、日本:3146社、ドイツ:837社、オランダ:222社、フランス:196社という内訳になっている。やはり日本の企業が全体の56%と大半を占める結果となっており、ここからも日本企業の長寿という特徴が明らかになっている。後述するが、この中にはアジアの企業は、日本の他には、中国の2社ぐらいしか入っていない。統計に漏れているのではなく、アジアでは日本だけに長寿企業が多数存在しているのである。

 

日本企業の特徴

日本に長寿企業が多いというのは、間違いのない事実である。しかも他の国々の数を圧倒的に上回る数である。特にアジアにおいては日本は特徴的で、中国、韓国ともに長寿企業は数社にしか満たない。
例えば韓国は、創業200年を超える企業は1社もなく、創業100年以上の企業も斗山(1896年創業の重工業)と東洋薬品工業(1897年創業)の2社しか存在していない。
中国では六必居」1538年創業の漬物店、「張小泉」1663年創業のハサミメーカ-、漢方薬局「陳李済」と「同仁堂」、飲料の「王老吉」と150年以上の企業は5社のみである。

つまり日本はアジア圏においても特徴的な企業組織としての特徴をもっている。では日本の企業の長寿の秘訣とは何なのだろうか?

石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルは1970年代の石油危機の経験から、企業継続に関する研究を1980年に行っており、次のような点が重要であると指摘している。

① 環境の変化に敏感である
②事業の独自性と、従業員の結束性がある
③分散的に経営され、自由度がある
④財務的には保守的である

ひとつめの「環境の変化に敏感である」ということは、過去の成功体験に縛られず変化を恐れない「変化への対応」を受け入れる事と関係している。実際に、日本の老舗企業は、コアビジネスは守りながら、時代に合わせて少しずつ変化させることで、企業年齢を重ねてきている。コアはしっかりと守りながら、時代に応じたイノベーションを受け入れるという姿勢を常に保ち続けてきたのである。

さらに重要なポイントもある。ロイヤル・ダッチ・シェルの指摘した、ひとつめの「環境の変化に敏感である」事は、外的要因に含まれるかもしれないが、他の3点は内的な要因である。実際、企業は不況や戦争という外的要因により、企業はその命を絶たれるというよりは、むしろ組織内部からの要因により、終わりを迎える事が多いのである。例えば、過去に成功して業績を伸ばしてきた企業は、その成功体験にしがみついてしまい変革が困難であるケースが多く、その為に業績が悪化しても、打つ手なくあるいは変革を受け入れられずに倒産する場合もある。このように変化出来ないのは組織の内的な要因であり、いくら変化に敏感であっても、組織が変われなければ、企業は生き延びれないのである。

石田梅岩

石田梅岩

日本企業が長寿であるのは、外的要因よりは、むしろ内的な要因において特徴的である。近江商人の心得である「三方良し」は、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「良し」。つまり売り手と買い手がともに満足し、また社会貢献もできるのがよい商売であるということだが、これは現代のCSRに通じる理念である。実はこうしたサステナブルな感覚が日本の企業には昔から存在していた。

また石田梅岩の石門心学に共感する経営者も多い。石田梅岩は営利活動を否定せず、倫理というよりむしろ「ビジネスの持続的発展」の観点から、本業の中で社会的責任を果たしていくことを説いており、現代のCSR感覚を先取りしているとみなされている。

「二重の利を取り、甘き毒を喰ひ、自死するやうなこと多かるべし」

「実の商人は、先も立、我も立つことを思うなり」

上記のような教えを残して、利益だけ追及して行うビジネスを戒めている。
日本企業には、こうした倫理的なビジネス感覚が通念として備わっており、企業が社会に貢献することに重きを置いてきたことが企業存続に大きく貢献して来たものと考えられる。これは自分だけが収益をあげても、社会全体にメリットにならないのであればビジネスの価値がないという考え方である。

まとめると、日本企業の生き残りの理由として

①コアは保ちながら、小さなイノベーションを継続的に行ってきた
②社会との関わりにおいて貢献することを重んじてきた
③組織体制が柔軟であった(変化しやすい、変化を受け入れる組織)

春木屋ラーメン

春木屋のラーメン

上記のような内的な要因があり、日本企業は、世界に類例を見ないほどの多くの長寿企業が存在しているのである。その中でも①は老舗企業が同じビジネスドメインで時流に合わせて商品を開発したり、サービス提供の方法を代えてきたことによって成し遂げられてきた。
ひとつの例として、荻窪にある昭和23年創業、65年の歴史を持つ「春木屋」というラーメン店を取りあげてみたい。この店は、「春木屋理論」でラーメン界で有名だ。その理論とは「常連客に常に変わらず美味いと言ってもらうためには、常連客に気づかれることなく、微妙に味を変えていかなければならない」という方法である。全く同じ味でもなく、全く違う味でもなく、微妙に変化していく味、そして変わらぬ美味さ、これこそが春木屋が常に客に愛される秘訣である。

「『春木屋の味は、いつも変わらないい』と言われるが、『変わらない』と言われるためには、常に味を向上させなければならない」ご主人のこうした理念にも感銘を受けた。終戦後の昭和23年に店を開き、食糧事情がどんどんよくなるなかで、同じものを出していたら、味が落ちたと言われてしまう。ベースになる味は変えず、客の舌の一歩上の味を出しつづけることが、「変わらない」と言われる秘訣だという。この言葉は、どんな授業よりもインパクトがあり、リアリティがあった。私はこれを「春木屋理論」と命名し、座右の銘とした。(武内伸、「ラーメン王国の歩き方」、知恵の森文庫、1999

この方法は、単にこのラーメン店だけでなく、多くの長寿企業が暗黙理に取ってきたメソッドでもある。このような小さなイノベーションの集積こそが、顧客というファン層を長く繋ぎ留め、新しい顧客を獲得する為にも重要なのである。長寿企業はどの企業もこれと同じ様な事を行っているからこそ、長く存続できている。

長寿企業の特徴をみると、変わるところは絶えず変え、変わらないところは頑なまでに守って変えないという一見、相反するような特徴が見られる。昔、私は上司に「意志は強固に、考え方は柔軟に」と教えられた事があった。実際、その当時の私は「意志は弱く、考え方が固い(柔軟性がなく融通が利かない)」ような仕事の仕方であったと思う。やはり老舗企業の多くは「意志は強固に、考え方は柔軟に」を一貫して守り抜いており、それが仕事の成功と存続の鍵にもなっている。

 

松榮堂の取り組み

1長寿企業のイノベーションの例として、京都の松榮堂を取り上げたい。松榮堂は宝永2(1705)年、京都に創業して以来、今日まで香づくりの会社として約300年間の歩みを続けている会社である。もともと香は仏教の伝来とともに日本に伝わり、仏教儀式において必要なものとして発達を遂げた。実際、日本国内では、市場売上の約85%が線香や焼香といった仏事用のお香で、残り約15%が趣味の領域であるお香となっている。
現代では仏事の需要が減少している事と、明治時代に香水が入ってきた事もあり、その当時から趣味としての香は凋落し、その状態で横ばいが続いている。

こうした現状にあって松榮堂は「お香というモノを売るのではなく、香り文化を生活に提案」するというスタンスを取ることでイノベーションを行っている。例えば、アンテナショップ「リスン」を立ち上げ、7cmスティクの香を販売するることにより、今までのお香の宗教的なお香の概念を、趣味やファッションといった嗜好品の分野でも使ってもらえるようにしている。また松榮堂は、お香という伝統的な企業でありながら、積極的なグローバル対応を行っている。明治30年からアメリカに輸出を開始し、平成2年からは、商品説明・デザイン・パッケージを海外仕様化、またニューヨークとボストンでお香を楽しむ行事を実施し、コロラド州ボルダーに米国松栄堂(Shoyeido Corporation)設立している。

 

イノベーションを起こせる企業の本当の強み

最近、イノベーションを重要視していると言う企業は多い。しかし、イノベーションが起こるような企業内部の仕組みが整っていないのに、イノベーションを掲げて推進しようとする拙速な企業も多いように感じる。イノベーションとは、先に述べた企業のように、実際は小さな変革の集積である事が多い。確かに画期的な新技術、あるいは製品の開発は華々しいが、それに至るまでも小さな気付きと発見があってこそ成し遂げられる成果である。

こうした小さな変革の集積をもたらすのは、やはり組織の在り方が重要である。イノベーションを起こせる企業は、柔軟であり、寛容性が高く、変化を受け入れる結束の固い組織である。口で言うのは容易いが、組織はなかなか変化出来ないものである。実際、過去の成功体験は変化を妨げる一番の障害になるだろう。また組織の平均年齢の上昇や、経営者の独断判断も妨げになる場合がある。

日本の企業の平均年齢は35.6歳であるという帝国データバンクの統計にあるように、企業寿命の30年説というようなものもある。これは大体、創業者の年齢による引退の時期とも合致する。また企業がイノベーションを起こせない場合には、時代についていけず、倒産してしまうだろう。企業組織は、絶えずイノベーションを起こして、組織の代謝を図ることが、長生きには必要で、イノベーションなくして長寿企業の存在はあり得ない。そういう意味では、日本の企業こそ、イノベーションが得意なはずである。なぜならば2万5000社近くも100年企業が存在しているのだから。

例えばキャノンであるが、イノ0ベーションの例として取り上げられることがある。キャノンはカメラ会社としてスタートしたが、メイン事業は10年ごとに変化してきたと言われている。カメラの次はコピー機、さらにはプリンターやデジタルカメラというように、時代ともに、もっているコアの技術を生かしながら主力商品を変化させてる。またFuji Filmも、元々はフィルムを作っていたが、カメラや医療機器、そしてフィルム需要が無くなった最近では、その技術を応用した化粧品を製造販売している。

上図にあるように創業以降の、断続的に行われる経営革新(イノベーション)により、企業は凋落を回避し、成長を遂げることが出来る。逆に言えば、もしイノベーションを起こせなかったら、企業は終わってしまうだろう。

今回は、日本の長寿企業について検討してみたが、日本企業の長寿には確かな理由があることが理解頂けたのではないかと思う。こうした日本特有の企業文化の良いところは吸収し、それを会社に取り入れるとで、長寿企業としてどの企業も成長することが出来るに違いない。最後に長寿企業が大事にしている「今後も生き残るために必要なもの」に関する統計を紹介したい。

今後も生き残るために必要なもの

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帝国データバンク「百年続く企業の条件」 複数回答可

実際に老舗と呼ばれる企業は「信頼の向上」と「進取の気性」という、「ディフェンス」と「オフェンス」ともいえる両極を重要なこととして挙げている。確かにイノベーションは保守的とも思える環境でも生まれるし、イノベーションという攻撃的手段をとる決断と体制があるからこそ長寿企業になれるのである。今後もこうした企業を目指して、株式会社ログワークスもこれから研鑽の一歩を踏み出して行きたい。

 

出典

京都老舗の信頼性について
京都老舗企業に学ぶ持続する経営のあり方
「老舗」の経営が示唆するものは何か
京の老舗から学ぶ伝統産業の
内発的イノベーションの仕組み・仕掛け
長寿企業の条件 「知的資産創造」2002年10月号
帝国データバンク 特別企画:企業平均年齢と長寿企業の実態調査
List of oldest companies:Wikipedia

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